バテない登山のポイント2

バテない登山のポイント2

2023年の夏山、コロナの5類への見直しにより社会活動が平常化すると同時に、多くの方々が登山を楽しめるようになってきました。
が、同時に山岳遭難も増えており、特にこの夏は「疲労により行動不能」という事案が増えているように思います。

そこで、ここでは先の投稿に続いて「バテない登山のポイント2」として、登山における代謝や心肺機能についてもう少し掘り下げてみたいと思います。

登山開始は何故苦しい?

誰もが経験していると思いますが、登山の始めって息が切れたり足が重かったりしてキツイですよね。
でもしばらくすると慣れてきて苦しさから解放されるのですが、何故そのようなことが起きるのでしょうか?

右のグラフは一定の傾斜を一定の速度で登っている場合の酸素の消費量と、スタートから時間とともに増えてくる登山者の酸素供給量(取り込み量)を表したものです。

スタートしたばかりは登山者の心拍数が低く、体に取り込める酸素の量が少ないため「息が切れる、苦しい!」、そして筋肉にも酸素がいきわたらず「足が重い」ということが起きているのです。

よって、心拍数がある程度上がるまではゆっくり登りましょう。
ここで無理をするといきなり心肺機能や筋肉に大きな負担をかけてしまい、疲れの蓄積になってしまいます。
歩き始めで失敗すると後半まで疲労を引きずることになり、辛い山行になりますので是非ご注意あれ。

さて、この苦しさが解消された頃から実は体の中では代謝の変化が始まっているのです。
そう、「有酸素運動」と呼ばれる有酸素的な作業代謝に変化しているのですね。
それでは続いて代謝について説明します。

エネルギーを生み出す代謝の仕組み

人がエネルギーを得るためには体内でいったいどのようなことが起きているのでしょうか?
エネルギーを生み出すにはアデノシン三リン酸(ATP)をアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸(Pi)に分解する時に得ることが出来るのだそうです。しかしながら、ATPは体内に貯蔵されていますが、微量であるため限りがあり、わずかな時間しかエネルギーとして利用する事ができません。よって運動を継続するにはATPを利用するだけでなく同時に再合成する必要があります。

そこで重要になってくるのが「代謝」であり、3種類の代謝があるとのことです。

代謝の種類

  1. 有酸素的代謝(有酸素系)
    主に糖質(筋グリコーゲン)や脂質を、酸素を利用することで分解しATPを生成します。この「酸素を利用する」という事からも分かるように、登山などの有酸素運動時のエネルギー代謝経路として利用されます。
    代謝経路が複雑であるため、エネルギー供給に時間がかかるとともに、長時間エネルギーを使用し続けるために、運動強度が低〜中強度の時に主に使用される代謝経路となります。
  2. 無酸素的代謝(解糖系)
    主に糖質(主にグルコース)を分解しATPを生成します。無酸素という言葉が使われていますが、これはエネルギー代謝経路の中で酸素を利用しないという意味合いであります。
    しかしながら、運動時の無酸素的代謝が優位な場合でも有酸素代謝は働いているので、呼吸は必要です。そしてこの過程の中で乳酸が産生されます。
    運動強度が高く身体を動かすエネルギー源である筋グリコーゲンが多く分解され、筋疲労を生じさせ長時間運動には適しません。
  3. 無酸素的代謝(ATP-CP系)
    骨格筋内に貯蔵されているクレアチンリン酸を分解しATPを再合成します。クレアチンリン酸自体がわずかしか貯蔵量となるため、酸素を利用することはありませんが長時間運動する事はできません。短時間の中で爆発的なパワー(力×速さ)を発揮する時に使用する供給機構で、短距離走などの時間が短く運動強度が極めて高い運動時に主に使用します。

登山中の適正心拍数?

登山には息が切れない程度の有酸素的代謝が適しているとの説明をしましたが、具体的な指標となる心拍数についてもう少し掘り下げてみたいと思います。

右のグラフは運動の強さと心拍数の関係を表したものです。運動強度が高くなれば心拍数が上がるのですが、途中2つの変化点があり、それぞれに閾値(しきいち)となる名前が付いています。

AeT値=有酸素性作業(代謝)閾値
有酸素運動から無酸素運動の要素が含まれ始める境界値のことです。平たくいうと、最も効率よくエネルギー代謝ができている値になります。

AT値=無酸素性作業(代謝)閾値
筋肉のエネルギー消費に必要な酸素の供給が追いつかなくなり、血中の乳酸が急激に増加する値です。

それぞれの閾値は以下の計算で概算することができます。

AeT値=(220ー年齢ー安静時心拍)×0.6+安静時心拍
AT値=(220ー年齢ー安静時心拍)×0.8+安静時心拍

参考として65歳、安静時心拍数が60回/分で計算してみると…
AeT値=117回/分
AT値=136/回分   …となります。

AeT値付近の心拍数で登山をすれば、1番楽に長時間登り続けることができますが、登山は急傾斜になったり、岩場もあったりと運動強度の高くなる場面もありますので一定の心拍数を維持するのは難しいですね。
でも、できる限りAT値を超えないよう、ペースを作っていくことが中高齢者が長く登山を続けるために心がけたいことの一つではないでしょうか。
最近はスマートウォッチもお手頃な価格となってきたので、心拍数をモニターしながら登山やトレーニングも行いやすくなってきましたね。

心肺機能のトレーニング

有酸素運動や無酸素運動の閾値となる心拍数について説明をしてきましたが、心肺機能のを高めるためにはどのようなトレーニングがあるのでしょうか?
ポイントは、心臓が拡大収縮する際の血液の吐出量とAT値にあるようです。

つまり、心肺機能が強いといわれる方は、
①心臓が鼓動するたびにより多い血液を送り出すことができるので、低い心拍数でも酸素量が不足しない
②AT値が高いので無酸素運動に至る心拍数が高く、より強度の高い運動を長時間継続できる
ということを目指せば良いようです。

では、心臓はどのようにトレーニングすればよいのでしょうか?…残念ながら心臓の筋肉は他の筋肉のように筋トレすれば大きくなるというようにはいかないようです。
唯一言われていることは「心拍数を上げる有酸素運動を継続的に行う」ことで心臓への負荷が習慣化することで血液吐出量が多くなるということです。

一方、AT値を高めるトレーニングはインターバルトレーニングが効果的です。
高い効果を得るためには、有酸素運動(強度よりも運動時間を優先)と高い強度の運動を適切に組み合わせる必要がありますが有酸素運動がトレーニング時間の大部分を占めることになります。
例えば、スロージョギングをしながら途中にダッシュを何本か組み込むようなトレーニングですね。
ウォーミングアップを忘れないようにしてください。

まとめ

  • 登山開始前にはウオーミングアップをしよう
  • 歩き始めは心拍数が上がるまでゆっくり歩いて負担軽減
  • 登山中は傾斜や段差の大きさに合わせて息の切れないペースをつくろう
  • 無酸素性作業閾値を高めるためのインターバルトレーニングをしよう