安全登山に欠かせない登山計画

2022年11月23日

一般登山道は人が歩くことを前提に協力者の皆さんの努力によって整備・維持されているものの、自然が相手である為多くのリスクがあることはお判りいただけたかと思います。
またそのリスクを如何に最小化するかということは、きちんとした登山計画が重要であることを前述致しました。

ここでは、具体的な登山計画の作成において中高齢者の皆さんに是非注意していただきたい点をお伝えしながら、登山計画の重要性をご理解いただければと考えています。

登山計画に必要な調査

登山計画を決定する上では以下のように「自分の力量に合っているか」、また「危険個所等のリスクは無いか」、「気象のリスクは」…と多く調査をし、安全登山ができるという判断をすることになります。

  • 目的の山のコースと登山口(下山口)
  • 登山口(下山口)までの移動方法
  • 登山口と下山口の駐車場やトイレの有無
  • コースの状態(アップダウン、危険箇所、ガレ、ザレ、鎖場、水場等)
  • 累積標高、距離、標高
  • コースタイムと休憩時間
  • 登山予定日と前後の天候(天気、気温、風速)
  • 携帯の電波が入る地点
  • エスケープルート
  • 故障や病気の予防

1.必ず最新の情報を集める

情報の溢れる時代になって、ガイドブックや雑誌などで魅力的な山がたくさん紹介されるようになりましたが、詳細な登山道情報を得ようとするとやはり山地図でしっかりと情報を収集していただきたいと思います。

但し、注意していただきたい点は山道は変化するということです。
例えば登山道が崩落してしまい新たなルートを作っていたりすると、地図と一致しないルートをたどることになります。

また、入山してみたら直前の台風の影響で登山道が崩れていたり、増水で橋が流出してしまい通行不能になっていることも考えられます。

そこで、お勧めするのはヤマレコやYamapといった登山情報サイトを利用した登山道の最新情報収集です。
最近、目的とする山に登ったユーザーの投稿を検索することで、コースの状態や危険箇所、通行不能箇所などの情報を得ることができるので、入山前にリスクを知り最小化することができます。

2.登山情報サイトについて

登山情報サイトは機能的には大差がないので、其々の皆さんの好みで選択いただければ良いと思いますが、私の場合は以下のような理由で「ヤマレコ」を使っています。

  • 比較的経験の深いユーザーが多く、危険な場所や道迷い等に関する投稿が多い
  • 登山口までの移動はGoogleMapとの連携で、移動距離や移動時間が直ぐにわかる
  • ルート選定にあたり、「みんなの足跡」というビッグデータでルートの使用実績を確認できる
  • ルートを決定すると平面距離や累積標高が自動計算される
  • 標準コースタイムで行動時間が計算されるが、自分の力量に見合った倍率で調整できる
  • スマホで登山ログ(歩行軌跡)を取りながら、万一ルートから外れるとアラームを鳴らす機能がある
  • 家族や山岳会に自分の居場所を知らせたり、下山した通知を行う機能がある
  • 各県警と連携契約を持つ登山サイトである「コンパス」に登山届や下山届けを電子申請できる
  • 登山者リストはマイリストに登山仲間のデータを保存できるので、登山届の作成が容易
  • 計画ルートと磁北線記入された山地図が容易に印刷できる

登山情報サイトではタイムリーに多くの情報を得られますので、是非ご自分に合ったサイトを有効活用していただきたいですね。

ルート計画を作る

ここでは、ヤマレコの「山行計画を書く」という機能を利用する前提で、中高齢者の皆さんに留意頂きたい点をお伝えしたいと思いますが、パソコンやスマホの操作については「ヤマレコ」を見ていただくと案内がありますので割愛させていただきます。

1.ルートを調査する

目的とする山が決まっても、登山道がたくさんあってどのルートを使うのが良いか悩むことがあると思います。
先ずはWebでどのようなルートがあるのか、どのような登山道なのか、景観、岩場や鎖場などの情報を調査して「是非登ってみたい!」と思うルートを選択してみることをお勧めします。

例えば、たのもしいサイトをご紹介しますと「日本アルプス登山ルートガイド」になります。
このサイトでは、北、南、中央アルプスをはじめに、八ヶ岳や富士山、そして日本の主要な山々のルートの特徴を紹介しており、ルートの状況を写真で見ることができ、難易度の高くなる核心部も紹介されています。
視覚的にもわかり易く、難易度の把握もできるのでお勧めできるサイトだと思います。

他にも、Web上には登山ルートを紹介しているサイトは多数ありますので、是非魅力のあるルートを調査してみてください。

2.累積標高を調査する

さて、魅力あるルートが見つかったとしても、自分の力量で本当に登れるのかどうか?というのは不安になりますよね。
過疲労で山頂までたどり着けず行動不能になったり、登りで疲れてしまって下りで転倒したりしては大変です。

そこで指標になるのが「累積標高」です。(獲得標高という言い方をする場合もあります)
読んで字のごとくですが、累積した高さであり、登りだけを累積した「登り累積標高」と下りだけを累積した「下り累積標高」に分けられます。
標高差とは異なるので混同しないようにしてください。

ヤマレコでコースを選択すると累積標高が表示されます。
低山の日帰りハイキングですと±500m程度ですが、がっつりの日帰り登山ですと±1500mといった値になります。

栗駒山(いわかがみ平から周回)

上図は栗駒山をいわかがみ平から出発し、東栗駒山経由で周回した例ですが、約510m登って、510mを下るということを表しています。(累積標高=±510m)

栗駒山(須川温泉から秣岳経由周回)

同じ栗駒山ですが、北側の須川温泉から入山し、栗駒山~秣岳を周回するルートをヤマレコで作ったものです。
累積標高は±820mほどあり、いわかがみ平ルートと比較すると±310m多く上り下りすることになります。

このようにコースによって負担が大きく変わるので、自分はいったいどのくらいの累積標高を登れるのか?ということを普段から知っておくことが非常に重要です。

更に注意いただきたい点は、同じ累積標高でも登山道の顔つきによって負荷は大きく変わるということです。

例えば登山道が土道のケースと、ガレ場が多かったり鎖が連続したりするケースでは同じ累積標高でも体への負担は全く異なります。
過信されないようにご自分の力量をしっかりと把握しておくことが大事だと思います。

3.コースタイムを計画する

さて、魅力あるルートが見つかりましたでしょうか?
でも自分の力量で無事下山できるのか?というのは不安になりますよね。
ここでは「栗駒山を須川温泉から入山し秣岳経由で周回する」場合のコースタイムを例にポイントのご紹介をします。

それでは早速コースタイムの計画を作ってみましょう。
ポイントは「コースタイム倍率」「休憩時間」「出発時間」の3つに留意頂くことをお勧めします。

a)コースタイム倍率

ヤマレコの画面では登山口から下山までのルートを選択するとコースタイムや累積標高や距離が表示されます。
この時に「倍率」という選択がありますが、標準に対して自分のペースは速いのか、遅いのかを調整する機能です。

自分がどの程度のコースタイム倍率で歩けるかは、個々に異なると思いますので、ご自分の力量がわからない方はまず「1.2倍」程度で計画されてみるのが良いと思います。

ある程度運動をされている健康な方であれば「1.0倍」程度でも問題ないと思いますが、計画⇒実行⇒振り返りという登山経験を積み重ねながら、登山道の顔つきによる違いを見極めて決めてゆくことが望ましいと思います。

b)休憩時間

計画の段階から休憩時間を見込んでおきましょう。

休憩の目安としては~

  • 体が温まってくる頃(出発から30分後程度)でウエアの調整をする時間を5~10分程度見込んでおく。
  • その後、45分~60分の行動毎に5~10分の小休憩を取る。
  • 3~4時間歩いたら30分~60分程度の大休憩(食事時間も含む)を取る。

~のような見込を取っておくと負担が少ないと思います。

経験を重ねながら自分に適した休憩の取り方を決めてゆくことが大切ですが、小休憩ではせっかく温まった筋肉を冷やさないように、立ったままの休憩にしたり、同時に行動食をしっかり摂ることも大切ですね。

c)入山時間/下山時間の確認

それではコースタイムの全体を確認してみましょう。

右は適宜小休憩を取りながら栗駒山まで登り、栗駒では山頂からの展望を楽しむ時間を20分ほどとりました。

御駒岳で昼食を30分取った後、小休憩をはさみながらイワカガミ湿原で20分ほどの観察時間を計画したものです。

16時までには須川温泉に下山したいので、出発時間は7時と計画した例です。

入山時間は下山時間を決めて逆算して決定したほうが良いと思います。

また、季節によって日没時間が大きく異なりますので、少なくとも日没1時間前には下山できるよう計画しておくと途中での小さなトラブルがあっても慌てずに対処する余裕が生まれると思いますので、是非考慮してください。

4.登山口までの移動を計画する

情報収集の手順について詳細に書くことは致しませんが、私の経験上注意すべき点を列記しますので参考にしてください。

  • 最新の情報を集める
    コースやその状態などは、ヤマレコやYamapなどの登山情報サイトで多くの投稿があるのですが、災害で通行止めになったり、危険箇所が新たに発生したとか、ルートが変わったり等の変化があるので、できる限り最新の情報を把握する必要があります。
  • 駐車場やトイレの情報
    登山口ナビやヤマケイオンラインの登山口検索で駐車場の有無、収容台数、トイレの有無等の情報を得られます。但し、登山口のトイレは山奥故に管理状態が思わしくない場合もありますので、登山情報サイトの投稿などでも確認すると良いです。
    また、GoogleMapなどで航空写真をレイヤしてみると、駐車場の大きさが確認できることもあります。
    駐車場の大きさによっては休日の早朝に満車になってしまうところもあるので、登山情報サイトの投稿を良く調べておく必要がありますね。
  • 天気予報について
    登山は標高の高いところに登るので一般的な天気予報だけでなく、高層の天気予報も確認することが重要だと思います。
    具体的には、ヤマテンやYamaYamaGPVなどで下層・中層・上層の雲の状態や気温、風速などを1週間くらい前から見て、変化を把握しておくと当日の天気の想像力が上がります。

自分の力量を把握する

ここまでは主にリスクの最小化という観点で登山計画の作り方について説明をさせていただきましたが、さて?自分の体力・筋力で登れる山なのか?…という自信はありますか?

注意が必要なのは、よく整備された土道のハイキングコースと岩場や鎖場の連続する登山道では同じ累積標高でも負担は全く異なるという点です。

先ずは難易度の低い山から、また様々なコースの特性の山を実際に登山して、計画した通りに登山できたかどうかを振り返ってみてください。そのためにはヤマレコやYamapのログ記録の機能を利用して、登山ルート、時間、標高などの記録を取っておくと山行記録を作るのに役立ちますし、計画との比較を行いやすいですね。ぜひ、PDCAを繰り返して自分が登れる累積標高や自分に合ったコースタイム倍率を見つけ出してください。

また、さらに繰り返し登山を行ってゆけば、やがて体力や技術も向上し、更に大きな累積標高の山も安全に登れるようになってゆくと思います。